インターネットが発達した現代では、あるきっかけで広まってしまった情報による誹謗中傷に悩まされている人も多いでしょう。
こういった誹謗中傷は、悪質なものだと被害者の社会的な地位を脅かしてしまう恐れもあります。
しかしながら、もしそれが名誉毀損にあたる誹謗中傷だった場合は、それを理由にして情報の拡散を防止できる可能性があるのです。
ここではネット時代の自己防衛策!誹謗中傷による名誉毀損の対応法とは?について紹介します。
目次
名誉毀損とは?誹謗中傷との違いを基礎知識とともに紹介
名誉毀損に関する知識を紹介する前に、まずはどういったものが名誉毀損にあたるのかを把握する必要があります。
何故ならば、名誉毀損というのは全ての誹謗中傷に対して適応されるものではないからです。
したがって、被害者になった際に適切な対応を取るためには正しい知識が必要になります。
この段落では、誹謗中傷の中でそれが名誉毀損にあたるのかを判断する基準や、関係する基礎知識などについて説明します。
名誉毀損とは
名誉毀損とそれ以外の誹謗中傷を分ける大きな違いは、それが周囲に事実として認識されやすいかどうかという点です。
分かりやすく例を挙げると、「あの政治家は浮気をしている」と「あの政治家は宇宙人である」と罵るのでは、前者の方が実際に事実であった場合も、そうでない場合も社会的な立場に悪影響がでる可能性があります。
しかし、後者の場合は常識的に信じられるような内容ではないため、名誉毀損とはみなされにくいのです。
何故ならば、名誉を毀損されるとはつまり、社会的な立場において利益や対面が害されるということを指しているからです。
そのため、何の根拠もない誹謗中傷では社会的な立場が損なわれるとは言い難いので、事実と社会的に認識されづらい誹謗中傷は、名誉毀損とはみなされにくいのです。
法律においては刑法230条と230条の2において具体的な名誉棄損罪に関する記述が記されています。
この中の誹謗中傷に関する刑法230条の条件を満たしたものが、法的には名誉毀損として扱われます。
名誉毀損の成立条件
名誉毀損は先で記したように刑法230条によって定義されています。
具体的な文面では「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
」と記述されており、この条件を満たした場合に名誉毀損罪が成立します。
しかし、この文面では公然、事実、人の名誉、などの個人により定義が曖昧になりやすい表現が多いので、具体的にどういったものが名誉毀損に当たるのかが理解しづらいです。
したがって、この段落では法律的な観点からみた、文面上の曖昧な表現の解釈について説明します。
「公然」
この文面でいう「公然」とは不特定及び多くの人が認識できる環境のことを指しています。
したがって、街中などの人が実際に多い場所というだけに留まらず、SNSなどのネットワークサービスもここでいう公然に含まれます。
また、友達限定のLINEグループ内といった少数規模のコミュニティ限定であっても、その情報が拡散されていく可能性が予想できるのであれば、文面上の「公然」の条件は成立します。
「事実を摘示し」
「事実を摘示し」という言葉の「事実」は、後の文面で事実の有無にかかわらずと書かれているように、内容の真偽については問われていません。
そのため、ここで記されている事実というのは、常用的に使う本当の出来事といった意味での事実ではなく、周囲に事実として認識される可能性があるものを指した言葉だといえます。
したがって、全くの嘘だとしてもその人の社会的信用を侵害するには十分な内容であった場合は、法律上は事実として扱われる可能性があります。
「人の名誉」
この記述上の「人の名誉」の「人」とは個人に限らず、法人や団体もその「人」の範囲内に含まれています。
しかし、日本国民や地球人といった、あまりにも雑然とした定義の集団に対しては適用されないので注意が必要です。
また、誹謗中傷の内容が先で記した「あの政治家は宇宙人である」のようにあまりにも社会的な評価から逸脱したものだった場合は、名誉毀損罪に問うことはできません。
例外事項
名誉毀損罪には文面上の条件を達成していても、罪にはならない例外が存在します。
その例外とは、刑法230条の2で規定されている3つの条件を満たす場合です。
その3つの条件とは事実の公共性(適示された事実が公共の利害に関するもの)、目的の公益性(適示の目的が専ら公益を図るためのもの)、真実性の証明(事実が真実であることの証明があったこと)というものです。
これらの要件を満たしている場合は、例外として名誉毀損罪にはならないので留意しておきましょう。
誹謗中傷に関する名誉毀損以外の刑罰
誹謗中傷に関する刑罰は名誉毀損だけではありません。
そのため、誹謗中傷の被害にあって名誉毀損では訴えられないケースでも、他の罪に問える可能性はあります。
誹謗中傷に関する代表的な刑罰には「侮辱罪」や「信用毀損罪」というものが存在します。
名誉毀損罪との違いを理解するためにも、他の刑罰について把握しておくことは重要です。
したがって、ここではそれら二つについての情報を中心に説明します。
侮辱罪
侮辱罪に関係する刑法231条には「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
」と記されています。
名誉毀損罪に関する刑法230条の文面と公然という点などは同じですが、一つ異なる点があります。
それは、事実を摘示しなくても成立するという点です。
つまりこの違いからは、同じ誹謗中傷でも「馬鹿野郎」などの内容が薄いそしりは侮辱罪になりやすく、真偽は不確かだがある程度不名誉になりうる情報を流布した場合には名誉毀損となりやすいということが分かります。
したがって、被害者を貶める発言を公然の場で行っているのならば、名誉毀損罪には問えなくても、侮辱罪には問える可能性があります。
信用毀損罪
刑法233条には「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
」と記載された項目があります。
内容的には名誉毀損に近いですが、こちらは業務という言葉が入っている分、商業的な不利益をこうむった際に適応されることが多い法律です。
例えば「あの店の商品は殆どが盗品である」といった情報の拡散が行われた際は、虚偽の風説により信頼が損なわれたり業務に支障が出たとしてその情報を流布した相手を信用毀損罪に問える可能性があります。
誹謗中傷による名誉毀損の事例
誹謗中傷などにより社会的な評価、つまり名誉が毀損されると、個人や会社などの信用問題にかかわってきたり、後々の利益を得る機会損失などが起こったりする可能性があります。
ここでは、参考として実際に発生した名誉毀損による被害の実例を有罪・無罪のそれぞれのパターンに分けて紹介します。
有罪判決のもの
ここで紹介する事例は、虚偽の事実が2ちゃんねるという大型掲示板に書き込まれたことが発端で起こった事件です。
被害者は当時不倫騒動によってバッシングを受けていたタレントの麻木久仁子さんの長女です。
それを見た麻木久仁子さんはまず、名誉が毀損されたとして、書き込んだ人の個人情報の開示と投稿の削除を求めて訴訟を起こしました。
当初プロバイダー側は投稿が名誉毀損にあたるか不明瞭のため、開示を拒否します。
しかしながら、後日裁判所が麻木久仁子さんが請求した通りの開示をプロバイダーに求めたため、投稿者の情報開示が行われ、実際に名誉毀損罪として成立しました。
これは、掲示板に書かれた情報に個人名は含まれていませんでしたが、実名がなくても名誉棄損が成立した事例です。
このように、仮にインターネット上の書き込みであったとしても、実際に罰することができたケースが存在するので、SNS上の誹謗中傷だからといって泣き寝入りする必要はないといえるでしょう。
無罪判決のもの
次に紹介するのは名誉毀損の例外措置が適用されたために無罪となった事例です。
この事件はある新聞社が奈良県の老舗旅館に関して、水道水を沸かしたものを天然温泉と表示したことが原因で行政指導を受けた、という記事を発表したことが発端で起こりました。
旅館側はこれに対して違反による指導の事実はないとして、記事による業務上の信用喪失を名誉毀損として訴えました。
しかしながら裁判所はこれに対して、ポンプの故障で温泉が使用できなかった期間中は、実際に水道水を天然温泉と偽っていた事実があるとして旅館側の請求を却下しました。
これは刑法230の2による「公益を守るため」に例外が適用された代表的な事例として挙げられます。
誹謗中傷による名誉毀損を受けた際の対応方法
名誉毀損は実害を把握しにくいものであるため、被害にあった時の対応や解決策が理解しにくいものです。
特にSNSの発達によって問題になりやすくなったインターネット上の誹謗中傷による名誉毀損は、より対応方法に悩みやすいです。
したがって、ここではインターネット上で起こりやすい誹謗中傷による名誉毀損に対しての有効な対策方法を説明します。
証拠の保存
まず、最初に行うべきなのは証拠の保存です。
インターネット上では情報の移り変わりが目まぐるしいため、早く対応しないとSNS上で行われた投稿が削除されるなど、誹謗中傷に関する書き込みが削除されてしまう可能性があります。
そのため、Webの魚拓サービス、スクリーンショットなどの機能を利用して、URLや書き込んだ相手のハンドルネーム、IPアドレスやメールアドレスなどの情報を証拠記録として保持しておくことが重要です。
そうすることで、実際に訴える段階になってもある程度の証拠が存在するため、訴訟において有利に立ち回れる可能性が高くなるでしょう。
拡散の防止
SNS上などの名誉毀損の対応として大事なのが、情報の拡散の防止です。
何故ならば俗に言う「炎上」などの状態に陥ってしまった場合、直接関係のない第三者が野次馬としてその情報を閲覧してしまう可能性があるからです。
情報は注目度が高ければ高いものほど、また、公開期間が長期に渡るほど拡散されていきます。
不名誉な誹謗中傷の拡散に不快感をもって訴えを起こしたのに、それが原因で不名誉な誹謗中傷が拡散してしまっては本末転倒になります。
そのため、SNS上で情報の拡散を防止したいのならば秘密裏に、書き込みなどが行われたサイト管理者に対してプロバイダー責任制限法を利用して削除申請を行ったり、逆SEOにより検索に引っ掛かりにくくするという方法を取るのが有効です。
安易な対応は状況の悪化に繋がる恐れもあるので、このような事態に陥った場合は情報拡散の防止方法に対しては慎重に考えていきましょう。
弁護士への相談
自分だけで対応するのが難しい場合は、IT関連に強い弁護士などに相談をするのも一つの方法です。
弁護士事務所の中には無料相談サービスを行っている所もあり、金銭面からも安心して利用ができる事務所もあります。
主な相談とそれ以降の流れとしてはまず、無料相談(誹謗中傷に関する全般的な相談)から始まり訴えが通りそうならば、より具体的な調査と審査(状況の確認や削除の可否の判断)を行い請求者の望んでいるものの把握をします。
そして受任と提案(削除申請や刑事告訴など)などの申請手続きから、最後に法的手続きを済ませることで、名誉毀損の訴えを起こすことができます。
一見複雑ではありますが、実際は殆ど弁護士さんに任せていれば手続きを済ませてくれるので、あまり心配をする必要はありません。
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刑事告訴
損害賠償の請求や裁判所を通じての強制的な対応などを行う場合は、刑事告訴を行うことになります。
そして、刑事告訴をするにあたって気を付けるべき点がいくつかあります。
まず、一つは名誉毀損罪は分類上は親告罪になるため、告訴期間が犯人を特定できた日から6か月以内に限られている点です。
この特定というのは、氏名や住所を把握するということではなく、誰が行ったかを認識しているかという意味なので、注意が必要です。
実際に告訴に至る場合は次の手順を踏むことでスムーズに行えます。
まず、最初は証拠の保全(犯罪が行われたことの証明)を行いましょう。
その後に刑法の文面通りにその情報が名誉毀損にあたるかどうかを確認して、犯罪が成立することの証明(名誉毀損罪に当たるかどうかの事前確認)をします。
この際に同時に時効になっていないかも確認しておきましょう。
ちなみに名誉毀損罪の時効は3年と比較的短めなので注意が必要です。
名誉毀損は分類上は親告罪なので、告訴をする時は被害者が告訴状を警察(もしくは弁護士)に提出しましょう。
そして、最後に告訴状が受理された後に、加害者の逮捕、検察官による起訴の有無、刑事裁判という順序で刑事告訴は取り進められていきます。
誹謗中傷による名誉毀損を理解し自己防衛力を高めよう
インターネットが普及した現代では、SNS上の誹謗中傷による名誉毀損などを理解するにはそれなりの知識がいります。
こうした知識を深めることは、名誉毀損などへの適切な対応を取るために必要なことです。
したがって、ここまでに紹介した知識を自身や会社の名誉を守るために利用することを検討してみてください。
また、誹謗中傷を専門とした相談サイトも存在するので、弁護士よりも軽めの相談をしたい場合はお試しで利用してみるのも一つの方法です。