インターネットで誹謗中傷を受けた際、法的に対処するのは手順も多く一般の人には難しいものですが、そんなとき頼りになるのが弁護士です。
ここではインターネットの誹謗中傷にはどんなものがあるのか、そして弁護士に依頼した場合どんなメリットがあり費用がいくらかかるのか、などについてご説明します。
弁護士に頼むのは敷居が高い、と感じている人もぜひ参考にしてください。
目次
ネットでの誹謗中傷は罪にあたるの?
ひとくちにネットでの誹謗中傷といっても、実はいくつかの種類があります。
ここではネットでの誹謗中傷の分類や、内容について見ていきます。
気に食わない書き込みをされた、誹謗中傷だ!と思っても、中には権利侵害とは認められないケースもあるので注意が必要です。
名誉毀損
公の場で他人の社会的評価・評判を落とすような事実を示す行為は「名誉毀損」となります。
例えば不倫をしている、逮捕歴がある等の書き込みをした場合がこれに当たります。
ここで重要なことは、書き込みの内容が事実か否かは問われない、ということです。
事実であってもなくても、他人の評判を落とすようなことを公の場で示せば、それはすなわち名誉棄損となります。
ただし、発言や投稿の内容が公共性・公益性のあるもので、内容に真実性がある場合は名誉毀損とならないこともあります。
例えば政治家のスキャンダルや重大な犯罪などを報道機関が報道する場合は、一般社会の利害に関することでなおかつ社会の利益を図る目的があるとみなされ、名誉毀損は成立しません。
侮辱
「侮辱」は、他人の名誉感情を侵害する行為です。
名誉棄損のようになんらかの事実(と思われる事柄)を適示するものではなく、いわゆる悪口雑言や攻撃的な発言などがこれに当たります。
具体的には他人の容姿をひどく貶めたり、気に入らないからといって人の不幸を願うような発言をすることが侮辱に該当します。
ただし、言われた側が不快に思ったり傷ついたりしたからといって、必ずしも侮辱として認められるとは限りません。
侮辱とは「侮辱行為の違法性が強度で、社会通念上許容される限度を超えた場合」にのみ認められるものです。
気に入らない、おもしろくない等個人の否定的な評価が書き込まれているだけでは、権利侵害とはなりません。
プライバシーの侵害
本人が公開したくないと考えているにもかかわらず、他人が勝手に個人情報や私生活について公表することを「プライバシーの侵害」といいます。
具体的には職場で人の年収を言いふらす、ネット上で住所・氏名を公開する、居住地が明らかにわかるような情報を書き込むといった行為がこれに当たります。
プライバシーの侵害は、あくまでも事実や事実らしく思われることを公表した場合に成立するものです。
したがって、言いふらした内容が全くのでたらめである場合には、プライバシーの侵害にはなりません。
また、友達同士の内輪話で公表した程度では、プライバシーの侵害として認められるのは難しいです。
ネットで誹謗中傷を受けた!弁護士に依頼できることは?
ネットで誹謗中傷を受けた、さあ弁護士に相談だ!と思っても、弁護士に依頼できる内容というのは決まっています。
また、中には弁護士を介さず自分で行うことができる手続きもあります。
では、弁護士にはどういったことが依頼できるのか、詳しく見ていきましょう。
サイトの管理者に削除要請を出す
誹謗中傷は多くの人の目に触れる前に一刻も早く削除してしまいたいものです。
が、損害賠償請求に当たっては証拠が必要となるので、まずはスクリーンショットを取っておきましょう。
その際、投稿内容や投稿日時、投稿されたサイトのURL、そしてスクリーンショットの撮影日時といった証拠となる情報が画像に含まれていることが重要です。
誹謗中傷の書き込みに対する削除要請は、サイトの管理者に対して行います。
これは法的な手続きではないため必ずしも弁護士に依頼する必要はなく、自分で行うこともできます。
その際には、ただ「削除してください」というのではなく、サイトが定めるガイドラインや利用規約にその書き込みが違反している、ということを指摘すると良いでしょう。
必ずしも削除の要求に応じてもらえるとは限りませんが、「応じてもらえなかった」という事実は弁護士に相談する際にも大いに役立ちます。
投稿者を特定する情報の開示依頼を出す
誹謗中傷を行った加害者に対して損害賠償請求を起こすには、まず加害者を特定することが必要です。
特定するために必要な情報は、削除要請の場合と同じくサイトの管理者に請求します。
具体的には書き込んだ人物のIPアドレスを入手し、そこからプロバイダを割り出し、プロバイダにIPアドレスを提示して契約者に関する情報を問い合わせることで、書き込んだ人物を特定することができるようになります。
情報提供の要請については、個人で申し入れるほか、弁護士を通じて弁護士会照会制度という調査の仕組みを利用することが必要です。
なお、サイト管理者が開示要請に応じない場合は、裁判所を通じて仮処分を行います。
プロバイダが応じない場合は訴訟を起こすことになります。
損害賠償の請求を行う
誹謗中傷を書き込んだ投稿者が特定できると、直接その人物に対し損害賠償を求めることができます。
交渉は、自身で行うよりも弁護士に依頼した方がスムーズです。
まずは書面でのやり取りから始まりますが、書面に弁護士の名前が記載されていれば、相手が交渉に応じる可能性が高くなるからです。
請求できる金額はケースによりますが、誹謗中傷のために売り上げが激減した、あるいはSNSにプライベートな写真を流出させられたといった深刻なケースでは高額になる傾向があります。
また、話し合いでまとまらない場合は損害賠償請求訴訟を起こすことになります。
弁護士に依頼する場合の費用はどれくらい?
自分ではできない手続きも法的知識に基づいて粛々と進めてくれる弁護士は、とても頼もしい存在です。
ですが、弁護士に頼むと多額の費用が掛かるのではないか、と心配している人もいるでしょう。
弁護士に依頼する際にかかる費用は、依頼する内容によって異なります。
ここでは、依頼内容ごとにおおむねどれくらいの費用がかかるのかをご紹介していきます。
誹謗中傷の削除請求
まず、弁護士費用には着手金と報酬金というものがあります。
着手金は弁護士が案件を受けた時点で発生する費用で、報酬金は案件が成功した際に払う費用です。
ここでは「誹謗中傷の削除請求」にかかる費用を紹介しますので、案件の成功=誹謗中傷の削除、となります。
削除請求にかかる弁護士費用は、裁判所を介するか介さないかで違ってきます。
裁判所を介さず、弁護士がサイトの管理会社に直接交渉して削除請求を行った場合は、着手金が5~10万円程度、報酬金も同じく5~10万円程度です。
弁護士が裁判所を介してサイトの管理会社に削除請求を行う場合は、着手金が20万円程度で報酬金が15万円程度、加えて裁判費用が3万円ほどかかります。
投稿者の身元情報の開示請求
インターネットに誹謗中傷を書き込んだ人物を特定するためには、身元情報の開示請求を行うことが必要です。
これに関しても、裁判所を介する場合と介さない場合とで費用が異なります。
まず、裁判所を介さない場合です。
弁護士がサイトの管理会社とプロバイダに対して直接交渉を行った場合、着手金は5~10万円程度、報酬金は15万円程度となります。
次に裁判所を介した場合、すなわち「サイトの管理会社およびプロバイダへの発信者情報開示請求の仮処分の申立」を行う場合は、着手金が20~30万円程度、報酬金は15~20万円程度です。
なお、裁判を申し立てる場合は裁判1件につき3万円の費用がかかります。
つまり、サイトの管理会社とプロバイダそれぞれに対して裁判を起こすのであれば、3万円×2=6万円かかるということです。
損害賠償請求
損害賠償請求を行う際の弁護士費用も、裁判所を介するか介さないかで金額が異なります。
裁判所を介さず弁護士が投稿者と直接交渉する場合、着手金が10万円程度、報酬金は慰謝料の16%が相場です。
裁判所を介する場合、つまり訴訟を起こす場合は着手金が20万程度となりますが、報酬金は訴訟を起こさない場合と同じく慰謝料の16%が相場となっています。
なお、訴訟を起こす場合は裁判費用が3万円かかります。
誹謗中傷トラブルを弁護士に依頼するメリット
インターネット上で誹謗中傷トラブルに巻き込まれた際、その解決を弁護士に依頼することには大きなメリットがあります。
というのも、誹謗中傷トラブルを法的に解決するためには、法律の詳しい知識が必要不可欠だからです。
ネット上の自分に関する書き込みに対し腹を立て、不快に思っても、その書き込み内容が「誹謗中傷」であり「自分の権利を侵している」ということを法的に証明できなくては何もできません。
単に気に入らないことに対して機嫌を損ねているだけだ、と言われても仕方がないのです。
しかし弁護士であれば、書き込みのどの部分がどういった権利を侵害しているかということを、法的に主張することができます。
そうして初めて削除要請や投稿者の情報開示請求などができるようになり、誹謗中傷記事を削除したり、投稿者を特定できる可能性が高くなるわけです。
もちろん裁判にかかわる手続きでも弁護士の力が不可欠です。
行政書士・司法書士に依頼はできないの?
ネットの誹謗中傷問題を被害者が自分で解決するのは非常に困難です。
そこで法律の専門家に頼りたいところですが、弁護士というと特に日頃接する機会のない人から見れば依頼するのはハードルが高いと感じることも多いのではないでしょうか。
中には司法書士や行政書士の方が気軽に頼めると思う人もいるかもしれません。
では、司法書士や行政書士に誹謗中傷問題の解決を頼むのは可能なのでしょうか。
司法書士・行政書士は弁護士に比べて権限がかなり限られています。
具体的に言うと、司法書士にできるのは対処を進めるうえで必要な書類の作成までで、サイトの管理人や投稿者との交渉はできません。
行政書士に関しては、書類の作成も不可です。
したがって、交渉は自分で行わなくてはならなくなってしまいます。
さらに裁判ともなればもうお手上げです。
弁護士であればサイトの管理人や投稿者との交渉ができますし、裁判での代理人や手続きなどをすべて任せることができます。
そうでなくても誹謗中傷を受けて心身共に疲弊している人にとって、自分で難しい手続きを行うというのは現実的ではありません。
削除要請や情報開示請求、そして裁判まですべてトータルで行える弁護士に任せてしまうのが一番安心といえるでしょう。
ネットでの誹謗中傷問題を依頼するべき弁護士とは?
インターネットの誹謗中傷問題をスムーズに解決するにあたっては、どのような弁護士に頼むかというのも重要な点です。
とはいえ、日頃弁護士のお世話になる機会の少ない人、あるいは初めて弁護士に依頼するという人の場合、弁護士を選ぶ基準がわからず戸惑ってしまうことも多いでしょう。
そこで、特にネットの誹謗中傷問題に対処する際の弁護士の選び方を、具体的なポイントを挙げてご紹介します。
風評被害問題の案件の実績が豊富
弁護士を選ぶ際に大切なのは、自分が頼みたい案件と類似した案件について豊富な実績を持っているかどうかという点です。
弁護士が扱っている案件は、ネットの誹謗中傷以外にも労働問題や離婚問題など多岐にわたります。
誹謗中傷問題を解決するのに、離婚が専門の弁護士に頼むというのはあまりおすすめできません。
やはり誹謗中傷や風評被害の問題を多く手掛けている弁護士に頼むのが一番です。
弁護士の過去の実績はHPで見ることができます。
現在では多くの弁護士がHPを持っているため、簡単に調べることができるでしょう。
誹謗中傷問題を専門としている弁護士ならば、書き込みのどの部分が権利侵害に当たるのかを的確に見極めることができますし、サイトの運営会社やプロバイダ、投稿者との交渉にも長けていて有利に事を運ぶことができます。
IT分野が得意
風評被害問題の中でも、ネットの誹謗中傷問題はやや特殊です。
解決に当たっては、単に法律を熟知しているだけではなく、ネットやITの知識も不可欠だからです。
投稿者を特定するためにはIPアドレスの知識が必要ですし、サイトの運営会社の問い合わせ先を特定するためにはwhoisコマンドというものが使えなくてはなりません。
対象とするサーバーが海外にあれば、その国の法律に関する知識も必要です。
ネット掲示板での対応方法も知っていなくてはなりませんし、twitterや掲示板など投稿された場所によってどのくらいの人たちに広まっているのかを把握することも重要です。
こうした知識を併せ持ち、なおかつ実際に扱った案件の数が豊富な弁護士であれば、安心して任せることができるでしょう。
ネットでの誹謗中傷対応は弁護士へ相談しよう
インターネットでの誹謗中傷に対しては、サイトの管理者やプロバイダなど様々な相手に申請や依頼を出していく必要があります。
しかも、スムーズに依頼に応じてもらえるとは限りません。
そんなときには法律の専門知識を持った弁護士に依頼すれば、代理として円滑に手続きを進めてもらえます。
IT分野を得意とし、豊富な実績がある弁護士を選べば安心です。