インターネット上での誹謗中傷で悩む人は数多く存在します。
書き込みを見つけ、泣き寝入りをする人もいるかもしれませんが、その誹謗中傷には対処できる可能性があります。
名誉毀損罪が成立するケースがあるのです。
誹謗中傷を含む書き込み自体の削除方法、法的手続きを踏んだ上での解決策など、誹謗中傷・名誉毀損に関わる対処について解説します。
目次
名誉毀損罪とは
名誉毀損罪とは、他人の名誉を傷つける行為、および日本の刑法に規定されている犯罪です。
名誉を毀損される、つまり他人によって社会的評価を落とされた場合に成立させることができます。
刑法230条に定められる名誉毀損罪が成立した場合、刑事的責任として、3年以下の懲役、もしくは禁固、または50万円以下の罰金が発生する可能性があります。
民事的責任としては慰謝料の支払いが起こることが考えられます。
民事上の損害回復の手段としては金銭による賠償が原則とされているためです。
こちらは民法709条で定められている内容です。
刑法231条に定められる侮辱罪と似ているように感じられるかもしれませんが、事実の摘示の有無によって区別されています。
侮辱罪の場合は、事実の摘示がなくとも拘留または科料となる可能性があります。
また、名誉毀損罪には時効があります。
刑事告訴は犯人の特定ができてから6ヶ月以内、慰謝料請求は損害と加害者の存在を知ってから3年、または違法行為から20年間のどちらか早い方で行わなくてはなりません。
誹謗中傷による名誉毀損罪が成立する要件・成立しないケース
名誉毀損の成立には要件があります。
この要件を満たせばインターネット上の誹謗中傷であっても問題なく名誉毀損を成立させることができます。
逆に、名誉毀損が成立しなくなってしまうケースも存在しますので、まずは自身の置かれた状況が名誉毀損に該当するのかどうかを見極める必要があります。
成立する要件
名誉毀損を成立させる要件は、不特定または多数の人へ公表されること、事実と認識される内容であること、社会的評価を下げる内容であること、の3つです。
名誉毀損は1対1で中傷されても成立しません。
不特定多数が見ることができる公然の場で公表される必要があります。
ただ、インターネット上の誹謗中傷であれば、多くの場合は公然の場でのこととなるでしょう。
事実と認識される内容で、社会的評価を下げる効果をもたらすものであれば、名誉毀損は成立するのです。
成立しないケース
一方で、成立する要件を余すことなく満たしていたとしても、公表された事実が公共の利害に関する事実であること、公表した目的には公益性があること、そして公表された事実が真実であると証明されるか、真実であることが信じられる理由があるという場合には名誉毀損は成立しません。
これら3つを満たすケースであれば、公表された事実を知ることで多くの人の利益になるためです。
例としては会社の不正を暴く行為などが挙げられます。
ただし、成立するのは3つの要件を全て満たしたケースだけです。
例えばインターネット上で公表されたのが真実の内容であったとしても、それが公共の利害や公益性を伴わない場合は名誉毀損として成立します。
誹謗中傷による名誉毀損を受けたときの対処方法
名誉毀損が成立する要件までは確認できました。
これにより、誹謗中傷を受けた場合に名誉毀損が成立するのかどうかを判断することができるようになりました。
それでは、次は実際にインターネット上で誹謗中傷による名誉毀損を受けたときの対処方法を説明します。
誹謗中傷による名誉毀損を受けた場合、最終的には慰謝料を請求するか、刑事告訴を行うかのどちらかを行うことができます。
しかし、それらを実行に移す前に、まずはこれらの対処を行いましょう。
証拠の保存
誹謗中傷はなるべく早く消してしまいたいものですが、削除依頼をする前に、まずは誹謗中傷に関する証拠の保存を行います。
スクリーンショットなどを用いて、インターネット上で誹謗中傷を受けた際の発信先のURLや発信の日時、発信者のハンドルネームなどを保存します。
メールアドレスなど、その他証拠となり得るものも確保しておきましょう。
これらは後々必要となってくるものですので、必要と思われる情報は全て保存しておくことをおすすめします。
サイトの管理会社へ削除依頼
証拠を保存したら、次はインターネットサイトの管理者へ誹謗中傷の削除依頼を行います。
当該のサイトに書き込みの削除手順などが載っていればそれに従います。
基本的には削除の手順が載っていればすんなり削除することが可能です。
もしも手順が記載されていない、あるいは問い合わせフォームで依頼することが削除の手順とされている場合は、設定されている問い合わせ窓口に削除依頼を出しましょう。
もしも問い合わせフォームすら見当たらないのであれば、送信防止措置の依頼を実行します。
送信防止措置とはネット上で誹謗中傷などを書き込まれた場合にサイトの管理者などがそれを削除することを言います。
送信防止措置を依頼するための書類を郵送などすることで、送信防止措置を申し込むことができます。
それでも対応がない場合は、裁判所に削除依頼の仮処分を申請して削除を行うことになります。
誹謗中傷による名誉毀損に対して慰謝料を請求するには
証拠の保存と書き込みの削除を行ったら、いよいよ発信者に対する行動を実行に移します。
まずは慰謝料を請求する方法を説明します。
サイトの管理者への情報開示請求、プロバイダへの情報開示請求を行った後に発信者へ慰謝料の請求という大まかな流れに沿って実行します。
発信者の特定
慰謝料の請求のためには、慰謝料の請求先である発信者の身元の特定が必要です。
そのためにはインターネットに残った情報から後を追い、情報を確保していきます。
具体的には、IPアドレスからプロバイダを特定し、プロバイダから発信者の住所・氏名を入手します。
サイトの管理会社への情報開示請求
まずは発信者のIPアドレスに関する情報についてサイトの管理会社へ開示請求を行います。
発信者のIPアドレスを入手すれば、発信者のプロバイダも特定することができます。
プロバイダの会社まで特定できれば、発信者の住所・氏名まで把握することができるのです。
もしもサイトの管理者がこの請求に応じない場合は、裁判所で発信者情報開示請求の仮処分の申し立を行い、情報を入手します。
プロバイダへの情報開示請求
プロバイダを特定したら、まずはそのプロバイダへ発信者情報の保存請求を行います。
なぜ情報開示請求の前に保存請求をしなければならないのかというと、プロバイダの保有している情報は3か月ほどで削除されてしまうためです。
まずは保存を請求し、情報を確保する必要があるのです。
もしもここで拒否された場合は裁判所でプロバイダに対し発信者情報消去禁止仮処分の申立を行います。
保存が無事終了したら、発信者情報の開示を請求し、発信者の住所・氏名を入手することができます。
発信者への損害賠償請求
発信者の情報を入手し、いよいよ損害賠償請求を行うことができる段階となりました。
発信者に対し、書面あるいは対面にて直接慰謝料の交渉を行いましょう。
ただし、自分が行うよりも、弁護士を通して交渉するほうがまとまりやすいです。
一般的には書面にて交渉を開始します。
仮に交渉決裂となった場合、今度は裁判所に損害賠償請求を申し立て、慰謝料を請求することになります。
誹謗中傷による名誉毀損での慰謝料の相場は?
慰謝料の金額は、名誉毀損の対象によって異なります。
一般人における名誉毀損にもとづく慰謝料の相場は10~50万円程度ですが、事業者や芸能人などが名誉毀損を受けた場合にはそれ以上になることがあります。
これは事業の信用が落とされたことにより売り上げが落ち込んだり、仕事の件数が減少することが考えられるためです。
この場合には50~100万円程度の高額な慰謝料となることも考えられます。
他にも、ヌード写真の公開による名誉毀損であれば100万円以上が慰謝料の相場とされています。
誹謗中傷による名誉毀損に対して刑事告訴するには
次は、慰謝料の請求ではなく、刑事告訴を行う場合の手順です。
慰謝料の請求とは違い、刑事告訴するのであれば、警察に告訴状または被害届を提出する必要があります。
被害届は被害の内容を伝えるための書類ですが、告訴状は加害者を刑事罰で罰することを目的とした申立書類です。
また、刑事告訴が成立した場合は慰謝料を請求することはできませんが、示談金という形でお金が関わってくる場合があります。
弁護士への相談
刑事告訴の場合、警察に告訴状を提出する必要がありますが、その作成は弁護士に依頼するのが良いでしょう。
なぜなら、告訴状は加害者を刑事罰で罰するための申立書類である関係上、被害届以上に詳細に、具体的な被害内容と名誉毀損罪の構成要件に該当することを説明しなければならないからです。
警察は、告訴状の内容によって事件として扱うか判断することに加え、告訴状の内容が名誉毀損罪に該当することを主張できないと動くことができません。
刑事告訴をしたいのであれば警察の介入は必須ですので、告訴状の作成に不備があってはならないのです。
重要な書類である告訴状の作成については、法律に対する専門的な知識を持ち、これらの要件を満たす書き方に慣れた弁護士に依頼するのが無難です。
告訴状の提出
警察に事件性があると考えてもらうため、告訴状には被害内容と、被害内容が名誉毀損に該当する理由を記載する必要があります。
弁護士であれば誹謗中傷のどの箇所が名誉毀損に該当するかを記載することが可能なので、警察に事件性ありと考えてもらうように告訴状を作成できます。
こうして告訴状を完成させられたなら、証拠と共に警察へ提出しましょう。
ネット上の誹謗中傷による名誉毀損には、書き込みが行われた時から3年間の時効があります。
なるべく早めに行動したほうが良いでしょう。
示談交渉の準備
告訴状を見て警察が事件性ありと判断したならば、警察は加害者を逮捕します。
逮捕された後、加害者から示談交渉が持ち掛けられる場合がありますのでどのような対応をするべきか備えておいたほうが良いでしょう。
逮捕後、数日間加害者は勾留され、検察官の判断によって勾留が延長されるか刑事裁判へ起訴されるかが決定します。
なお、刑事裁判の場合は慰謝料を請求することができません。
もしも加害者が罪状を軽くしたいと考える場合は、加害者側弁護士から示談交渉を受けることが多いです。
被害者側から考えた場合、相手の罪状を軽くすることと引き換えに示談金を手に入れることになります。
示談金を手に入れることも視野に入れつつ、自分がどのようにしたいかを決めて準備をしておく必要があります。
誹謗中傷による名誉毀損についての相談先は?
インターネット上で誹謗中傷を受けた際、慰謝料を請求したり刑事告訴をする方法はお話ししました。
では、実際に相談する相手にはどのような機関などがあるのでしょうか。
本項では誹謗中傷を受けた際の相談先を紹介します。
弁護士
誹謗中傷による名誉毀損を成立させるのであれば、最終的に慰謝料を請求するのであれ、刑事告訴をするのであれ、法的に詳しい弁護士が頼りになります。
サイト管理者への書き込み削除要請や、プロバイダへの発信者情報開示請求など、名誉毀損に関しては多くの法的手続が必要ですが、それらをすべて一括して行うことができるのは弁護士のみです。
最初から最後まで、あらゆる状況で力になってくれることでしょう。
法務省の人権擁護相談窓口
法務省の人権擁護相談窓口は無料で相談および事実の調査を行ってくれる相談窓口です。
調査の上、サイト管理者へ書き込み削除請求も行ってもらえますが、法的権限を持ち合わせていないため、書き込み削除を拒否されたとしても対応することができません。
また、それ以後の各種の法的手続きにおいても法的権限を持ち合わせていないことがネックとなります。
ただし、無料で利用できる窓口ですので、気軽に相談することができます。
対策事業者
対策業者は、弁護士や法務省の人権擁護相談窓口とは別の切り口でサポートを行ってくれます。
被害者について他の情報を掲載したサイトを多数作ることで、誹謗中傷の書き込みが検索上位に検出されないよう対策をしてくれます。
こうすることで、被害者を誹謗中傷する情報が他人の目に触れる機会が少なくなるのです。
ただし、法律上の権限の関係上、書き込みの削除要請などを行うと違反となる可能性があります。
それらは弁護士や法務省の人権擁護相談窓口に依頼するのが良いでしょう。
誹謗中傷による名誉毀損を早期解決するために
不特定多数の人間が匿名で書き込むことができるインターネットでは、誹謗中傷による被害が後を絶ちません。
もしも誹謗中傷を受け、それが名誉毀損であると思われる場合、何を置いてもまずは証拠の保存を行うことが重要です。
その後、発信者情報の入手も忘れずに行わなければなりません。
被害を受けたなら、放置することなくすぐに専門家へ相談するようにしましょう。