もしもインターネットで誹謗中傷を受けたら
インターネットが普及し、一時は調べ物や個人間のメールのやり取りが主だったネットツールは、今やSNSや掲示板など、不特定多数の人達とコミュニケーションが取れるツールとなりました。
世界中への情報発信を誰もが簡単に出来る時代です。
発信される情報には良い情報もあれば、個人を攻撃するような悪意のある情報もあります。
何か犯罪事件が起こった時に勝手な推測の元、まるで犯人かのようにネット上に上がっていた顔写真が勝手に使われていたり、また良いニュースの話題になった時でさえも、ありもしない過去の噂やマイナスイメージになるようなことを掲示板などに書かれたりなどの誹謗中傷被害にあってしまう可能性は誰にでも起こりうることです。
写真や個人情報を自分で載せた記憶はなくても、なにかのイベントに参加した際の写真や、卒業アルバムなどの写真などいつのまにかネット上にアップされてしまい、勝手に使われてしまうこともあります。
インターネットの怖いところは、お互いの顔を見ることができない状態で行われるため、誹謗中傷を書き込む犯人が何の後ろめたさもなく思いついたことを好きなように書けるという環境を作ってしまうことです。
自分とは全く関係のないことがらについて、ネット上で真実ではない噂がまるで真実のように拡散され、今まで交流のあった人たちや、これから新たに出会う人たちの信用を失うことは避けなければなりません。
こういったネット誹謗中傷の対象になってしまった場合、どのように対処すれば良いのでしょうか。
ネット誹謗中傷の被害でも解決方法はあるのか
誹謗中傷を受けた時、直接公衆の面前で中傷に当たるようなことを言われたり、書籍など責任の所在がはっきりしている媒体で言われたりしたことは、ある程度簡単に犯人を特定できて法的措置をとるなどの対策を講じることが出来ます。
しかし、ネットの掲示板は特にハンドルネーム、ニックネーム、またはIDなどといった公には個人を特定できない情報の元、書き込みが行われるのです。
書き込みが行われたサイトに削除要請をしたとしても、一度書かれたものはそれを見た不特定多数の人々によって拡散され、そうやって拡散した人たちの中にはたとえ嘘の情報であっても信じてしまい、むしろ他の人達にも教えてあげなきゃといったように善意をもって拡散してしまう人もいます。
最初に誹謗中傷を書き込んだ犯人もあるサイトに書き込みが削除されれば別のサイトに同じように書き込むなど、書き込んだ張本人に注意しないことには永遠にいたちごっこ状態になってしまいます。
これらの書き込みを泣き寝入りして放置しておけば、情報がどんどん拡散され、個人の信用を失うことにもなりかねません。
ではいざネットの誹謗中傷被害にあってしまった場合はどうしたら良いのでしょうか。実は、たとえ媒体がネット上とは言え、書き込みの削除を要請することはもちろんのこと、犯人を特定し、名誉棄損で訴え、慰謝料を請求することができます。
犯人特定はどうやってやるのか
ネット上の書き込みの犯人はどのように見つけたら良いのでしょうか。
ハンドルネームやニックネームから推測して犯人の絞り込みを行うというのはかなり無理があります。
というのは、全く面識のない人に誹謗中傷を書き込まれていることがあるからです。
もちろん、実際に調べたら自分にとってマイナスなことをしそうにないとても仲良しの人が書き込んでいたという事実に直面する場合もあります。
とはいえ、たとえハンドルネームやニックネームから犯人らしき人に行きついたところで、確実にその内容を書いたという証拠を出すことが出来ません。
直接その人に文句を言ったところではぐらかされるだけです。
むしろ、全く見当違いだった場合は逆に名誉毀損で訴えられる場合があります。
よって、犯人特定は推測で行わず、発信者情報開示という権利を利用することが重要です。
犯人特定までの流れ
もしも、ネット上で自分や家族などに対する誹謗中傷の書き込みを見つけたら、まずはサイトの管理人者に記事の削除と発信者情報の開示を請求します。
記事の削除は観覧者は基本的には出来ないようになっていますので、削除するには書いた本人、またはサイトの管理人者にしか権限がありません。
この削除要請は「送信防止措置依頼」という手続きです。
これらの手続きを踏む際のポイントとして、問題となる書き込みを写真や印刷、PDFファイルなどで保存しておくこと、問題がある箇所について明確にしておくこと、プライバシー侵害や名誉毀損などの侵害された権利を明記すること、また、侵害された理由について書くことが必要です。
とくに同一ページに様々な書き込みがされる掲示板の場合は、スレッド名だけでなく、スレッド番号まで詳しく明記しなければなりません。
この削除要請が認められると、対象のスレッドやブログのページなどが削除されます。
ただし、拡散されたものまで一括削除できるかというとそうではありません。
すでに拡散されてしまったものは、見つけ次第同様に削除要請を行って地道に削除していく必要があります。
また、サイトの管理者にこれらを請求する際、プロバイダ責任制限法という法律を掲げることが出来ます。
この法律は、もし運営するサイトなどにおいて被害を被った人がいた場合、その人は運営元にその書き込みに関する発信者の情報開示を請求出来るという権利を提唱しています。
しかしながら、この法律ではサイトの運営者に関してこれらの開示請求がされた場合、返答や対応を義務付けているわけではありません。
サイトの運営者はそれに応じるか応じないかを選択することが出来るのです。
よってこの時点ではまだ運営者の任意による選択ですが、もしも開示請求に応じないとの返答が帰ってきた場合は、被害者は仮処分として裁判の手続きをとることが出来ます。
そして、裁判所の指示により、開示命令が発動すれば、発信者のIPアドレスが公開されます。
もちろん、開示請求に応じた場合は任意でそれらの情報が開示されます。
このIPアドレスはインターネット上の住所のようなもので、このアドレスを特定できれば、書き込み元を特定することが出来ます。
次に、このIPアドレスを管理するプロバイダに発信者情報開示の請求を行います。
ここでも、請求に応じるか応じないかは義務ではないのでプロバイダが選択しますが、もし応じない場合は、サイトの運営者に対して行う方法と同じように裁判所を通して開示命令として発信者の情報を手に入れることが出来ます。
しかしながら、書き込みを行なった人はプロバイダにとっては顧客にあたります。顧客の個人情報は簡単には開示されませんので、任意の開示請求には対応できないことも少なくはありません。
そうなった場合は、裁判所に仮処分手続きを申請するしか方法はありません。
またこの発信者情報の開示には、プロバイダによる申立書の吟味、発信者への情報開示に関する意見照合が行われます。
よって、発信者情報開示というのは、発信者の意思なくして行われるわけではありません。
しかしながら権利侵害が明らかな場合など、発信者が開示を拒否している場合でもプロバイダが開示に踏み切る場合もあります。
この段階でわかるのは、書き込み元のIPアドレスを契約している人の名前や連絡先、住所などです。これらの情報から犯人を特定します。
犯人を特定した後はどのようにするべきか
犯人を特定し、慰謝料を請求する場合はどのようにしたら良いでしょうか。
まず一つ目の方法として、内容証明郵便を使い、犯人に直接慰謝料請求をするという方法があります。
これは、差出人、送付先、そして第三者の郵便局に送った内容が保存される郵便です。
犯人がこれに応じない場合は、訴訟を起こすこともできます。
また、被害内容が悪質だと判断された場合は、被害届を警察に出すなどをして、刑事告訴や逮捕による刑事罰を科すことも出来る可能性があります。
これらの手続きを個人でやることはかなりの労力が必要ですし、犯人と被害者間のみのやり取りでうまくまとまる確率はとても低いので、代理人を立てることがベストです。
弁護士はつけるべきか
情報開示によって連絡先は手に入れていますが、個人的に直接接触することはリスクを考えるとあまりお勧めできません。
もし万が一にも、面識を持ったことによって犯人によって報復行為が行われれば、インターネット上の誹謗中傷行為のみにならず、傷害事件、殺人事件に発展する恐れもあるからです。
名誉毀損で訴えるにしても、慰謝料を請求するにしても弁護士などの代理人を立てることは自分の身を守る上で大変役に立ちます。
その上、送信防止措置依頼や発信者情報開示請求の申し立ては被害者本人もしくは弁護士などの代理人のみにその権利が与えられています。
これらの申立書には法律用語も多く使われるため、ネット犯罪に強い弁護士に相談するのも一つの方法です。
もちろん、マイナス面もあります。
弁護士をつけると代理人として相手方と話をまとめてもらえるので精神的には安心できますが、金銭面の負担が発生します。
例えば、書き込みの削除要請をお願いした場合、10〜15万円の着手金がかかります。
成功報酬として10万円程を更に支払わなければなりません。
また、発信元の情報の開示請求には着手金として15万円から25万円、成功報酬は20万円程かかります。
よって、裁判に持ち込む前の犯人を特定するまでに少なくても55万円程はかかると思っておいた方が良いです。
この後、慰謝料の請求や刑事告訴を行なう場合は、着手金に20万円程、賠償金などが認められた場合はその16パーセント程が報酬として請求されます。
賠償金がもらえた場合、これらの資金を最終的には賄える可能性はありますが、やはり金銭的な負担は大きいです。
金銭的負担をとるか、精神的不安をとるかはそれぞれですが、どちらにしても危ない橋は渡らずに1番自分にとって最適な方法をとることが望ましいです。