インターネット上で発生する誹謗中傷。
恐怖を感じるほどの悪質な内容に対し、脅迫罪で訴えることは可能か悩んでいる人も多いでしょう。
この記事では脅迫罪が成立するのはどのようなケースなのかを具体的に説明し、脅迫罪になると判断された場合の対処法についても併せてご紹介します。
誹謗中傷による脅迫行為に対して、どのような流れで対処すれば解決につながるのかまとめていますので、ぜひ参考にして下さい。
誹謗中傷による脅迫罪とは?
インターネット上で誹謗中傷をされた時、脅迫罪が成立するのはどのような状況でしょうか?
ここでは脅迫罪が成立する定義と脅迫罪の対象になる人やもの、さらに脅迫罪に値した場合の刑罰や時効についてまとめました。
成立する要件
脅迫罪が成立する規定は、刑法222条の条文で「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
」と述べられています。
誹謗中傷を行っている加害者側が被害者側に対して生命を脅かしたり、自由を制限する発言をしたりするなど危害を与える発言や行動があるがどうかが判断基準です。
さらに条文では「親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。
」とも記載されています。
関連リンク:第二百二十二条 (脅迫)
ネット上で被害者個人に対してだけでなく、被害者の家族や親族に対して害を加えるような発言をすることも脅迫罪が適用されます。
これらの害悪の告知については客観的判断が必要となり、状況によって判断が異なります。
例えば誹謗中傷でも害を加えるような発言はなく、ただ悪口を言っているだけの場合や、大声で怒鳴っているだけの場合は脅迫罪の対象にはなりません。
まずは、ネット上に記載された誹謗中傷の内容を細かく分析・判断する必要があります。
脅迫罪の対象
脅迫罪の対象になるのは、まず個人が特定した相手に対して「殺して欲しい」「ケガをさせて欲しい」など生命・身体に危害を加えると判断できる内容の誹謗中傷です。
その他にも監禁など身体の自由を奪われる危険性があると判断されるものや、「この事実を公表する」などの名誉毀損につながるもの、「財産を奪い取る」などの個人の財産を侵害する誹謗中傷も脅迫罪の対象になる可能性があります。
脅迫罪は、インターネット掲示板など不特定多数の人が目にできる場所で書き込まれた内容はもちろん、相手にしかわからない個人宛のメールや文書として送付した場合も対象です。
個人宛のメールや文書は誹謗中傷の対象が目にしない限り罪に問われることはありません。
しかし脅迫罪は親告罪ではないため、第三者がインターネット掲示板の書き込まれた内容を通報しても警察の捜査対象になります。
対象となる人
脅迫罪の対象になる人は、本人または本人の親族に限られます。
そのため、本人の友人・恋人など知人にあたる場合は対象になりません。
「お前の家族を殺してやる」の場合は脅迫罪が成立しますが、「お前の友人を殺してやる」という発言では脅迫罪の対象にはならないのです。
一方、本人が飼っているペットは本人が所有する財産として脅迫罪の対象と見なされます。
例えば「お前の犬を殺す」「お前の猫にケガをさせてやる」などの発言が出た場合は脅迫罪が成立します。
個人ではなく法人の場合は、本人が代表取締役のような会社を代表する立場であれば脅迫罪の対象となります。
刑罰と時効
脅迫罪は親告罪ではありませんので、刑事告訴は必要ありません。
刑事責任の時効は犯罪行為時から3年、民事責任の時効は被害者が損害の発生と加害者の存在を知った時から3年となっています。
刑法で脅迫罪が適用された場合は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます。
ただし、脅迫の内容の悪質さや重大な結果になった場合はもちろんこの限りではありません。
初犯の場合は略式裁判で罰金刑になり懲役が発生しない場合もありますが、逆に深刻なケースは初犯でも懲役刑になることがあります。
類似犯罪との関係と違いについて
ネット上の誹謗中傷は必ずしも脅迫罪に該当するものだけではありません。
もし脅迫罪に該当しなくても、別の犯罪に該当する場合もあります。
ここでは、脅迫罪と類似しながらも異なる他の犯罪の具体例と、脅迫罪との違いについて説明します。
強要罪
強要罪とは、相手にとって義務のないことをさせたり、権利行使を妨害した時に成立する罪状のこと。
脅迫罪と混同されやすい犯罪ですが、脅迫罪は結果に関係なくただ脅すだけで成立します。
一方強要罪は相手に義務のないことをさせたり、権利行使を妨害したという結果が伴わなければいけません。
例えば「お前を殺すぞ」という書き込みの場合は脅迫罪が成立しますが、「○○をしないとお前を殺すぞ」のように、相手へ何かを強要したり権利行使を行い、相手がそれに従った場合に強要罪となります。
「○○をしないとお前を殺すぞ」という書き込みに対して、相手が従わなかった場合は強要罪は成立しません。
しかし強要未遂罪が適用される可能性はあります。
強要罪・強要未遂罪とともに懲役3年と脅迫罪よりも重い刑罰になります。
威力業務妨害罪
威力業務妨害罪とは、名前の通り威力や威勢を示すことで相手の業務を妨害した場合に成立する罪状です。
脅迫や暴力的行動はもちろん、人の意志を制圧するような勢力であれば「威力」と見なされます。
例えば過去に発生したお店の器物破損、全裸で食事する行為などは威力業務妨害罪です。
脅迫罪と威力業務妨害罪は、似たような性質を持つことから同時に成立する場合も少なくありません。
しかし、刑罰は威力業務妨害罪が懲役3年で重くなるため、両方の罪状が成立する場合は、より罪の重い威力業務妨害罪として裁かれます。
名誉毀損罪
名誉棄損罪は相手の名誉を著しく貶める行為に適用される罪状です。
それに脅迫が加わった場合は、脅迫罪と名誉棄損罪は併合罪へと変化します。
併合罪は刑罰も加重され、刑の長期は罪が重い方の刑期に1.5倍したものになります。
名誉棄損罪と脅迫罪の場合は、名誉棄損罪が懲役3年、脅迫罪が懲役2年ですので、名誉棄損罪の3年に1.5倍の4年半が併合罪としての長期になります。
侮辱罪
ネットの誹謗中傷の内容が脅迫に該当しない場合でも、その内容が相手を侮辱するようなことであれば侮辱罪が適用されることもあります。
侮辱罪は、相手の容姿や能力などに対して単に中傷し社会的評価を低下させることで、事実の指摘を伴わない言動が該当します。
事実の指摘をすることで社会的評価を低下させた場合は名誉棄損罪になります。
ただし、侮辱罪と名誉棄損罪は脅迫罪と違って親告罪です。
親告罪は、犯人の存在を知ってから半年以内に告訴する必要がありますので注意しましょう。
罪が成立するポイント
ネット上に書き込まれた誹謗中傷が脅迫罪として成立するには、どのような点を重視すればいいのかわからないことも多いでしょう。
ここでは誹謗中傷が脅迫罪として成立するポイントについてまとめましたので、ぜひ参考にして下さい。
客観的な恐怖が感じられるか
被害者の誹謗中傷が不快感や怒りを伴うだけでなく、恐怖を感じる内容であれば脅迫罪は成立します。
恐怖を感じる書き込みは、「殺してやる」や「殴ってやる」などの具体的な行為を表すだけでなく、抽象的なものでも相手が危害を加える可能性があると解釈した場合は脅迫罪が成立します。
一方で、不快感はあるものの恐怖を感じない書き込みは単なる悪口と判断されるため脅迫罪は成立しません。
氏名や住所など個人が分かるものを特定し「この人を殺してほしい」や「ケガをさせて欲しい」など他人に危害を加えるような依頼をした場合は脅迫罪に該当します。
この場合は依頼者は被害者に直接脅迫はしていませんが、間接的に被害者に危害を及ぼす可能性があり、被害者に恐怖を与えているからです。
脅迫罪成立に必要なのは客観的な視点です。
一読して恐怖を感じる内容かどうか確認しましょう。
発信者が関与することで恐怖を感じられるか
発信者が関与することで恐怖を引き起こす場合も脅迫罪が成立します。
例えば発信者が放火することで火事を引き起こす場合はもちろんのこと、相手が特定できる氏名や住所と共に「放火してやる」などの書き込みを行った場合でも脅迫罪は成立します。
被害者が現実に恐怖を感じるような言動や行動は脅迫罪の対象になるのです。
しかし予言や天災など、発信者が実際に関与して引き起こすことができないような内容の書き込みは脅迫罪にはなりませんので注意しましょう。
脅迫行為を受けたときの対処の流れ
実際にネット上で誹謗中傷による脅迫行為を受けた場合は、恐怖を感じて不安になるものです。
脅迫罪が成立するためには、証拠を集めたり警察や弁護士へ相談するなど様々な手順を踏む必要があります。
ここでは脅迫行為を受けた場合の対応手順をまとめました。
証拠の保存
ネット上で誹謗中傷や脅迫行為を受けた場合は、まず証拠を揃えましょう。
明確な証拠がないと警察は動きにくいですし、相手に慰謝料を請求することもできません。
自分の状況を理解してもらうためにも証拠は必要不可欠。
脅迫行為を立証するために必要な証拠は、脅迫メールやLINEなどのチャット記録、ブログ・SNS・掲示板に投稿された画面のスクリーンショットがあげられます。
匿名の掲示板やSNSからも相手を特定することは可能ですので、証拠として保存しておきましょう。
警察への相談
証拠を集めたら、一人で抱え込まずに早めに警察へ相談しましょう。
証拠が揃った状態で相手側を訴えたい場合は警察に被害届を提出します。
先に証拠がないと警察は動きにくいと述べましたが、十分な証拠が揃わなくても事態が深刻だと感じるときは警察へ早めに相談しましょう。
警察への相談記録が残れば、後日証拠が手に入ったときに有利な状況になることがあります。
証拠が不十分でも誹謗中傷に対して恐怖を感じた場合は、すぐに警察へ相談するのがおすすめです。
弁護士への相談
警察へ相談すると同時に弁護士への早めの相談もおすすめします。
脅迫罪は客観的な判断が必要ですが、前後の文脈によって立証可能かどうかが変わってきます。
脅迫罪に該当するかの判断は素人には難しいため、弁護士などの専門家に客観的に判断してもらった方が対応しやすくなります。
書き込みをした発信者を特定する場合、プロバイダ会社やサイトを管理する会社は、個人が情報開示請求をしても応じないことが多いです。
しかし弁護士を通して情報開示請求を行うと、スムーズに相手を特定しやすくなります。
客観的な視点と相手の特定を早めに行うためにも、弁護士の協力は欠かすことができません。
発信者の特定
発信者に対して訴訟を起こしたり、損害賠償を請求するためには発信者を正確に特定する必要があります。
ここでは発信者特定の流れについて説明します。
サイトの管理会社へ情報開示請求
発信者を特定するためには、まずは保存した証拠をもとにサイトの管理会社に対して発信者情報の開示請求を行います。
請求のときには自分が誹謗中傷を受けた被害者であることもきちんと証明する必要があります。
先に述べたように、サイトの管理会社は個人には簡単に発信者情報を開示しないことも多いため、万が一請求を拒否された場合は裁判所へ「発信者情報開示請求仮処分」の申し立てを行いましょう。
申し立てが受理されると、発信者のIPアドレスを取得できますので、このIPアドレスを基にプロバイダ会社を特定できます。
プロバイダ会社へ情報開示請求
プロバイダ会社を特定したら、次は会社側に発信者情報の情報開示請求を行います。
ここで拒否された場合は、サイト管理会社へ行ったように裁判所へ申し立てが必要です。
プロバイダ会社に対しては「発信者情報消去禁止仮処分」の申し立てを行いましょう。
申し立てを行うことでプロバイダ会社から発信者情報の開示を請求できますので、開示された情報を基に発信者を特定します。
発信者へ損害賠償請求
脅迫行為は民法上の不法にあたるため、被害者は発信者に対して損害賠償を請求することが可能です。
被害者が賠償金を請求する時は、内容証明郵便を利用して請求書を送付します。
万が一請求書が無視された場合は、裁判所に損害賠償請求を申し立てる必要があります。
告訴状提出
脅迫に対する刑事訴訟を起こす場合は告訴状の提出が必要です。
告訴状も被害届のように警察に専用用紙があるので必要事項を記入して提出します。
被害届と違って告訴状は受理されると警察に捜査開始の義務が発生します。
そのため、告訴状は被害届よりも詳細な被害内容と犯罪の構成要件に該当することを説明する必要があります。
告訴状は書式に沿って記載するため、自分でも記入することは可能です。
しかし証拠も併せて提出しますので、弁護士に依頼して記入してもらうことをおすすめします。
示談交渉の準備
発信者が逮捕された場合は、10日から20日ほどの勾留期間があります。
逮捕後は家族の面会はできませんが、弁護士はすぐに面会することが可能です。
この時弁護士は被疑者に対して早めの示談交渉を提案することがほとんど。
なぜなら、検察側が勾留期間満了までに起訴・不起訴の判断を行うからです。
万が一被疑者が起訴されて有罪判決を受けた場合、被疑者には前科がついてしまいます。
被疑者側の弁護士はそれを避けるために、期間内に被害者との示談を成立させることで不起訴処分の可能性を上げようとします。
これらのことから、発信者が逮捕された場合はすぐに相手側弁護士の示談交渉の開始が予想されますので、納得のいく交渉ができるように準備しておきましょう。
早く解決したほうが安心
ネット上で誹謗中傷による脅迫を受けた場合は、脅迫の証拠となる内容を保存し、警察や弁護士への相談やサイト管理会社・プロバイダ会社に発信者情報の開示請求を行うことで対処しましょう。
ネット上の脅迫は実生活へのトラブルに発展する恐れもありますので、放置をせずにすぐに警察や弁護士に相談することをおすすめします。