最近では、一般の個人はもちろん企業の規模に関わらず誹謗中傷の対象となるケースが増加傾向にあるようです。
中には、インターネット上で起こるトラブルに頭を抱えている人も少なくありません。
そもそも、誹謗中傷とはどんな状態を指しているのか具体的に説明できる人はどれくらいいるのでしょうか。
一口に誹謗中傷と言っても、名誉毀損罪や侮辱罪など加害者に問える刑罰はさまざま。
だからこそ、具体的な対応方法を検討する前に誹謗中傷について理解を深めておくべきなのです。
そこで今回の記事では、誰にでも降りかかる可能性がある誹謗中傷とは?事例紹介と対応方法を説明していきます。
目次
誹謗中傷とは?基本的な用語の意味や起こる問題を紹介
誹謗中傷の対処方法や適切な相談先を知るには、言葉の意味を正しく理解するのはもちろん該当する刑罰についても把握しておく必要があります。
とはいえ、誹謗中傷の意味はと問われても具体的にどのようなケースが当てはまるのか、明確に答えられる人は少ないのではないでしょうか。
こちらの章では、そもそも誹謗中傷とはどのような状態を指しているのか、実際に被害を受けた時に生じる問題点や刑罰などについてご説明しましょう。
誹謗中傷の意味
誹謗中傷は一般的に1つの単語として使われていますが、本来は似たような意味を持つ2つの単語がセットになっています。
それぞれの単語が持つ意味を見てみると、「誹謗」は他人の悪口を言う又は謗る(そしる)行為を指しており、「中傷」は根拠のない事柄を言いふらして他人の名誉を傷つける行為を指しているのです。
つまり、誹謗中傷を端的に表現すると「根拠のない悪口を言いふらして他人の名誉を傷つける行為」という意味になります。
言い換えれば、2つの単語の意味を併せ持っていなければ誹謗中傷とは言えないのです。
誹謗中傷により生じる問題
誹謗中傷による悪影響は、個人間という範囲が限定されるケースから名誉毀損により刑罰に繋がるケースまで多肢に渡ります。
友人や同僚との間で誹謗中傷のトラブルが発生した場合、友好的な関係を維持するのは難しくなるでしょう。
一方、学歴を詐称している、あるいは異性関係に問題があるなどの誹謗中傷は、被害者を傷つけるだけでなく信用問題にも関わります。
中には、職場で重要なポストから外されたり取引を解消されたりなど、本来であれば得られたはずの利益が損なわれるケースも珍しくありません。
また、特に軽視できないのが誹謗中傷の対象が勤め先や経営している会社に向けられるケースです。
会社のイメージが損なわれるのはもちろん、誹謗中傷がネット上で炎上すると電話での問い合わせが殺到するばかりか直接文句を言いに来るなど、社会的なトラブルに発展しかねません。
誹謗中傷に関する刑罰にはどのようなものがあるの?
確かに、他者から受けた誹謗中傷は明らかな攻撃ですから言葉の暴力と言っても良いでしょう。
そのため、さまざまな刑罰に繋がるケースが多いのも事実です。
ですが、どの刑罰にも該当しない場合は加害者を罪に問うことができません。
加えて、自身または自社に向けられた誹謗中傷がどの刑罰に該当するのかも把握しておく必要があります。
下記に紹介している誹謗中傷に関連する刑罰を参考に、自身のケースが当てはまるかどうか確認してみましょう。
名誉棄損罪
名誉棄損罪は2種類の刑法、つまり「刑法230条」と「刑法230条の2」によって定められています。
ですが、どちらの刑法も3つの条件を満たしていなければ適用されませんので注意が必要です。
1つ目の「事実を適示している」という条件は、内容について本当か嘘かの真偽は問われませんが誹謗中傷を受けたという事実を示せなければ条件を満たしているとは言えません。
公の場もしくは大勢の人が集まっている環境で誹謗中傷を受けた場合は、2つ目の条件である「公然であること」を満たしていると判断できます。
ちなみに、たとえ少数であってもその後に拡散が予想される場合は公然として扱われます。
また、社会的な評価を名誉と言いますが「名誉が損なわれていること」も名誉棄損罪を問う必須条件です。
ただし、刑法230条の2では次の3つの条件を満たしている場合に限り例外として罪に問えないと明記されています。
「事実の公共性」つまり適示された事実が公共の利害に関わっているだけでなく、「真実性の証明」も成されている状態。
加えて「目的の公益性」という条件も満たしている必要があります。
つまり、誹謗中傷を暴いて指摘する目的が単に公益を図るためであれば罪に問われませんが、別の目的で行う場合は罪に問われるのです。
関連リンク:第二百三十条 (名誉毀損)
関連リンク:第二百三十二条 (親告罪)
侮辱罪
侮辱罪は「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する」と明記されている刑法231条によって定められています。
公然性が求められているという点は名誉棄損罪と共通していますが、事実の適示について異なるのが特徴です。
「馬鹿野郎」と罵られた場合は事実の適示が行われていないと判断されて侮辱罪に、一方「年齢を詐称していた」と言いふらされた場合は真実か嘘かに関わらず事実の適示が行われていると判断されて名誉棄損罪の対象となります。
関連リンク:第二百三十一条 (侮辱)
信用毀損罪
信用毀損罪は「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」と明記されている刑法233条によって定められており、類似点が多いため名誉毀損と区別しづらいのが特徴です。
例えば、「偽物を売っている」という誹謗中傷によって信頼が損なわれたり業務が滞ったりした場合は、虚偽の風説が原因だと解釈できるため信用毀損罪の対象になります。
また、偽計業務妨害と呼ばれるほど威力業務妨害との類似点が多いのも特徴の一つです。
ポイントは「偽計」に該当するかどうか。
つまり、偽計業務妨害として成立するのは人を欺いたり誤解を招くようミスリードしたりする行為によって業務を妨害された場合です。
関連リンク:第二百三十三条 (信用毀損及び業務妨害)
威力業務妨害
威力業務妨害は「威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による」と明記されている刑法234条によって定められており、前条とは信用毀損罪のことを指しています。
威力業務妨害と信用毀損罪との違いは「威力」と「偽計」のどちらを用いているか。
同じ業務妨害でも威力を用いていれば威力業務妨害の対象に、人を欺く行為を用いていれば信用毀損罪の対象となります。
ちなみに、威力業務妨害における威力とは「人の意思を制圧する勢力」を指しており、対象が意外と広範囲にわたるのが特徴。
だからこそ、厳密には暴力や脅迫だと言えなくとも威力業務妨害の対象と見なされるケースが多いのです。
関連リンク:第二百三十四条 (威力業務妨害)
実際の事例を紹介
誹謗中傷のリスクは決して個人に限定される訳ではありません。
企業や団体といった組織や国家でさえも不利益を被るのが誹謗中傷の特徴でもあるのです。
ここからは、誹謗中傷による具体的な事例について組織と個人に分けてご紹介しましょう。
組織による誹謗中傷の事例
まずは、組織に対する代表的なケースとして某ラーメンチェーンが受けた名誉毀損の事例について見てみましょう。
被告人は個人で開設しているHP上で「カルト集団が経営している」「会社説明会の広告に虚偽の記載をしている」といった虚偽の記事を掲載しており、不特定多数の人に情報が拡散。
被害者は虚偽の情報によって実害を被ったと訴えを起こしましたが、残念ながら一審では無罪という判決が下されたのです。
インターネット上の情報は信頼性が乏しく事実として認識するには不十分であり、公益を図るための情報開示の範囲を超えていないというのが理由でした。
ところが、被害者側が上告したところ事態が一変。
最高裁では一審の判決について正しく事実確認が行われた上での事実とは認められないため、公益を図るための行為とは言えないと結論づけられたのです。
その結果、1審の判断は棄却され有罪判決が下されました。
ちなみに、加害者には罰金30万円が課せられています。
個人による誹謗中傷の事例
こちらは、タレントの麻木久仁子さんが「2ちゃんねる」という公の掲示板で受けた名誉毀損の事例です。
当時、掲示板では麻木さんの不倫騒動に関するバッシングが横行していましたが、その中に長女を中傷する虚偽の情報が含まれていました。
そこで、書き込みの削除を要求しましたが対象のプロバイダーは拒否。
法的に名誉毀損にあたるかどうか判断がつかないというのが理由でした。
その後、裁判所に発信者の名前と住所およびメールアドレスの開示を求める訴訟を起こしたところ、請求通り開示が認められたのです。
その結果、裁判所の判断に従ったプロバイダーによって対象の投稿が削除されたのはもちろん、投稿者の情報も開示されました。
インターネットの掲示板は複数の人と同時に情報を共有できるというメリットがある反面、匿名ならではのデメリットも指摘されています。
だからこそ、投稿されたコメント内に実名が記載されていなくても名誉棄損が成立した事例として注目されているのでしょう。
誹謗中傷を受けた際の対応方法とは?
誹謗中傷の被害を受けた場合、発信者の情報開示をはじめ情報の削除要求や刑事告訴などさまざまな方法で対処することが可能です。
ここからは、インターネット上で誹謗中傷を受けた人にはどのような選択肢があるのか代表的な対処法についてご紹介しましょう。
情報開示と削除要求
有効な手段はいくつかありますが、決め手となるのは拡散を防げるかどうか。
まずは、ネットで閲覧されている誹謗中傷の情報を削除してもらいましょう。
削除申請は、HPや掲示板などに対して個別に連絡を取りつつ適切な方法で行う必要があります。
なぜなら、たとえ似たようなWebサイトでも使用しているシステムが違えば情報を削除する方法も異なるからです。
誰が誹謗中傷の情報を投稿したのか突き止めるのも代表的な対処法です。
中にはブログやHPに問い合わせ先を載せていない運営者もいますが、通常はWebサイトの運営者とプロバイダーの両方で特定します。
つまり、「発信者情報開示請求」は最低でも2回行うことになるのです。
また、発信者を特定した後なら必要に応じて慰謝料を請求しても良いでしょう。
再犯を防止する効果も期待できます。
プロバイダーや各サービスに開示請求や削除申請が無視された場合は、裁判所を通じて法的に対処しましょう。
これ以上の誹謗中傷は法的措置を検討する、といった警告文を添えておくのも有効な手段です。
ただし、いわゆる炎上状態の時こそ慎重に対処方法を検討した方が良いでしょう。
対象の投稿を安易に削除してしまうと、火に油を注ぐ結果に成り兼ねません。
書き込みの削除と特定
インターネットで受けた誹謗中傷に対抗するには、「書き込みの削除」と「書き込み主の特定」が必要です。
削除は書き込み主やサイトの管理者に依頼できますが、掲示板の書き込み主を特定するためには管理者に連絡してヒントとなる加害者のIPアドレスを開示してもらう必要があります。
また、後日の損害賠償請求に備えて証拠を残しておくのも大切なポイントです。
誹謗中傷にあたる投稿を見つけたら、タイミングを逃さず画像データを確保しておきましょう。
関連記事:ネット上での誹謗中傷被害で犯人を特定する方法徹底解説
全てを自力でやる必要はない!相談先は?
自力で誹謗中傷を解決する自信がないという人も多いでしょう。
ですが、どのような相談先があるのかだけでも把握していれば、助けが必要な時に依頼することも可能です。
ここからは、いざという時に役立つ相談先の種類や特徴についてご説明します。
弁護士相談サイト
代表的な相談先として挙げられるのが「弁護士相談サイト」です。
弁護士が運営しているサイトですから、刑事告訴を視野に入れている人にとっては最もおすすめできる相談先と言っても過言ではありません。
特に、頼りになるのがIT系に強い弁護士相談サイト。
訴訟の手続きを補助してもらえるのはもちろん、情報の削除申請やIPアドレスの開示要求などでも大きな助けとなってくれるでしょう。
対策サービスサイト
民間企業によって運営されている相談サイトを「対策サービスサイト」と言います。
特に、1日に1回はSNSにPR情報を送信しているという企業にオススメの相談先で、炎上予防対策に対応してくれるケースが多いのが特徴です。
そもそも、ネット上の誹謗中傷は特定のサイトで繰り返し発生する傾向が見られますが、対策サービスサイトには悪評を公開している特定のサイトを意図的に検索上位から外せるというメリットがあります。
つまり、対策サービスサイトならではの逆SEO対策が活用できれば、ピンポイントで対処できる可能性が高まるのです。
中には、ネガティブ情報の自動検知サービスを活用している対策サービスサイトも少なくありません。
対処方法を確認し適切な対応
一昔前は芸能人や政治家が被害にあうことが多かった誹謗中傷も、SNSが普及するにつれて一般人にも被害が拡大しているようです。
中には一般企業が対象になるケースも多く、誹謗中傷によって失墜した信用を回復するのは個人にとっても企業にとっても簡単ではありません。
誹謗中傷による信用損失が利益損失に繋がりやすいからこそ、緊急に対処すべき問題かどうか見極めることが重要なのです。
もちろん、個人で対応する自信がないからと言って泣き寝入りする必要はありません。
依頼するかどうかはともかく、まずは弁護士に相談してみることを検討してみましょう。